齋藤久師|シンセ・アーティスト
“オレンジボコーダーは、ボコーダーもできる新しいシンセサイザーと言える”
最初にボコーダー・サウンドを聴いたのは、YMOのファースト・アルバムに収録されたシムーンや坂本龍一さんのソロアルバムですね。セカンド・アルバムになるとRoland VP-330が導入され、より明瞭度が高く何を話しているのかが理解できたんです。それで衝撃を受けてボコーダーが欲しくなったわけです。その当時Roland SH2を持っていたので、マイクをつないでフィルターで声を変化させることから始めたわけですけど、音質は変わるけれど音程が司れない..。そんな時にシンセサイザー仲間がKorg VC10を購入しまして、散々使い倒しました(笑)。
80年代半ばになるとボコーダー・サウンドが廃れてきていて、知人から使わなくなったVP-330を譲り受けたんです。それからRoland SVC-350などボコーダーを集めて行きました。さすがに、EMSは高額過ぎて手に届かなかったですけどね。EMSを使用したクラフトワークなどを聴くと、ドイツ語やイントネーションも関係しているかもしれませんが、もの凄くゴリゴリしていて、よりロボット的なサウンドで未だに憧れますね。たまに松武秀樹さんが自慢げにEMS VOCODER 2000を持って来て披露してくれますよ(笑)。
声を変える機械は全般的に好きなので、Orange Vocoderは発売されて即導入しましたし、DigiTech TalkerやAntares Auto-Tuneなども使用しています。様々なメーカーのボコーダーを使ってきて感じるのは、サウンドや明瞭度はそれぞれ違うことですね。例えばVP330は、内部の波形がキャリアになっています。これに対して、Moog、Sennheiser、EMS、SVC-350などは、キャリアを自分で入力しなければならない。やはり、ボコーダーってキャリアによってもサウンドは異なりますし、同じメーカーでもサウンドは変わってきます。そして明瞭度。ザラつくサウンドが欲しければ、明瞭度が悪くてもそのボコーダーを選びますし、どんな和音を弾いてもクリアに聴こえるボコーダーもあります。どれも個性的ですね。僕の中ではSennheiserのボコーダーが伝説的なのですが、Orange Vocoderを初めて使った時の印象はSennheiserにとても近いと感じました。
シンセ・アーティスト齋藤久師氏が制作したボコーダー・サウンドの代表曲をオマージュした即戦力プリセット(国内正規品ORANGE VOCODERを購入しユーザー登録するとこのプリセット・ファイルがGET可能)
Orange Vocoderがリリースされた時は、衝撃的でしたね。当時は、DAWがやっと使えるレベルになってきたタイミングだったので、リアルタイムなボコーディングは処理速度的に現実的ではなかったですね。ですから、予め声を録音してからOrange Vocoderをかける手法をとっていました。それに、ハードウェアのボコーダーって基本的にリアルタイムに鍵盤を弾く楽器でしたから、僕はそんなに弾くのは得意じゃないのでMIDIやコードメモライザーでコントロールできるOrange Vocoderには本当に助けられました。そして、音がズバ抜けて良かった。生々しいSennheiserとVP-330のクリアさが組合わさった印象で、どんなソースをモジュレーターにしても変な歪みが一切なかったんですね。Oranage Vocoderのフィルターや演算能力が優れているので、この明瞭度の良さが得られているのだと思います。また、ハードウェアのボコーダーは、基本的にボコーダーとしてしか使えないイメージなんですけど、Orange Vocoderはシンセサイザーとしても使える。減算式のシンセサイザーだけでは得られない、デジタルとアナログが混ざった様な新しいシンセサイザーのサウンドがしていますよね。そして、オーディオを入れることでインプットが動くわけですから、音程が付くフィルターと言うかね。ボコーダーもできる新しいシンセサイザーって認識で使っていますよ。これは、ソフトウェアの恩恵だなと思いますね。
“Orange Vocoderはどんなモジュレーターでも奇麗にボコーディングしてしまう”
このOrange Vocoder 10周年記念エディションは、クラシックなアナログ回路からデジタルクロス合成まで8種類のボコーダー・アルゴリズムが入っているので、サウンドのバリエーションは非常に広いです。アルゴリズムを変えるだけでまるっきり違う音になります。嬉しいのは、最初のOrange Vocoderアルゴリズムも残っていることですね。そして、全く音程感がない様なアルゴリズムも入っているので、効果音的にも使えますよね。
今では、ソフトウェアのボコーダーはいくつかありますが、Orange Vocoderはプリセット毎に非常に素敵なコードが入っていて、そこからインスパイアされることも多々あります。Orange Vocoderのストラクチャーを見れば分かるんですけど、減算式のシンセサイザーが理解できていれば一見で把握できる。EMSの様なゴリゴリしたサウンドから、VP-330の様なクリアなサウンドまで網羅できるストラクチャーが並んでいますね。モジュレーターは2基ですから、かなり複雑なサウンドが作れますし、サウンドをあえて壊す機能も入っている。これも嬉しいですね。あと、EQが良い。アルゴリズムだけなく、このEQだけでもかなりのバリエーションが出せます。だから本当に作り込めるシンセサイザーだと思いますね。
語源によってもボコーダーのかかり方が変わってくるとは思いますけど、ソフトウェアのボコーダーを使用する場合には、声を録音したファイルでモジュレートする人が多いと思いますが、奇麗なサウンドでないとボコーディングされないケースが多いです。だから、先ずノイズを削って、コンプで持ち上げて、アタック・カーブを削るなど、モジュレーターを奇麗に成形する必要がある。ただ、Orange Vocoderだけはどんなソースでもボコーディングするんですよ。今回制作したデモソングのモジュレーター・ソースは、到底お聴かせできないですけど(笑)、ノイズまみれでボソボソ話しているファイルなんです。デモソングを聴いてもらえば分かりますが、Orange Vocoderは奇麗にボコーディングしてしまう。これは凄いことですよね。
“正規登録ユーザーに即戦力の齋藤久師アーティスト・プリセットを提供”
Orange Vocoder正規登録ユーザーのために、代表的なボコーダー・サウンドをイメージした8種類のOrange Vocoder用プリセットを制作しました。正規品を購入してユーザー登録された方へこのプリセット・ファイル8種類をプレゼントします。解説を参考にしつつ、奇麗なボコーダー・サウンドだけでなく、壊れかけた感じもパラメーターを少し変えれば簡単に出せますし、声以外のソースにもドンドン使って欲しいですね。
[Behind330] YMOのBehind The Maskをオマージュしつつ、VP-330のあえて後期モデルをエミュレートしています。明瞭度の悪いボコーダーは和音が増えるに連れて歪んでくるんですけど、このデモソングを聴いてもらえば分かる様に、結構な数の和音を使用しているのにどこも歪んでないですよね。Orange Vocoderの明瞭度の高さが分かるプリセットになっていると思います。アルゴリズムはClassic Orange(Orange Vocoder 1998年オリジナル・アルゴリズム)を使用していて、VP-330の様なクリアな感じを出すためにEQでローをカットしているのがポイントですね。
[Tech330] YMOのTechnopolisをオマージュしています。原曲はVP-330ですが、非常に低い音程の単音フレーズなので、あえてザラついた感じのSVC350をイメージしています。アルゴリズムはAnalog Emul 2(24バンド・アナログ・ボコーダー・エミュレート)を使用していて、より力強くゴリゴリしたサウンドにするためにオシレーターにはDistorted Sawを選んでいます。そしてEQと内蔵のリバーブも深めに設定しています。
[AutoEms] クラフトワークのアウトバーンで使われたEMSをイメージしていますが、実際に使用されていたのは確かプロトタイプのEMSだったと思います。その、ただれた感じを出すために、アルゴリズムはMR 2nd order(マルチレゾリューション2次アルゴリズム)を使用していて、オシレーターにはDistorted Sawを選んでいます。そしてレンジのフィートを極端に開いているのがポイントですね。シンセサイザーも同様ですが、上を足すことによって歪み感が増します。
[Let’s330] アース・ウインド & ファイアーのLet’s grooveをオマージュしていますが、ブラック・ミュージックでは、モノフォニックで粘りがあり、そして張りもあるサウンドが求められます。アルゴリズムはClassic Orange(Orange Vocoder 1998年オリジナル・アルゴリズム)を使用していて、Coarseでピッチを変えています。そして、EQで中域を持ち上げボーカルとして全面に出そうとしました。フィルタリングで粘りを更に出し、低域でも潰れない様に処理しているのもポイントですね。
[DPVC] ダフトパンクが良くやるトークボックスの様なダーティーで粘りのあるサウンドをイメージしています。意識したのはTalkerです。Orange Vocoderは非常にクリアなので、あえて汚す機能も用意されています。それがフィルターセクションのディストーションです。ここでバコッと歪ませています。アルゴリズムはAnalog Emul1(24バンド・アナログ・ボコーダー・エミュレート)を使用していて、SyncとRingでこの様な効果を出しています。ローとハイのサウンドの違いも面白いと思います。このデモソングでは、ポルタメントの様な粘りも出したかったので、ピッチベンダーとグラブを使用しMIDIでピッチ情報を与えています。
[HBHzen] ハービー・ハンコックが初期に使用していたSennheiserをイメージしています。おそらく、ボコーダーの中でも一番人間の声に近かったのがハービーだと思うんです。Rockit Bandの頃になるとゴリゴリな音になっていますけど、最初の頃は人間の声に限りなく近い物を目指していたと思います。ところが、ビブラートが機械的で、ブレスもボコーディングされているところに違和感を感じる。そこが面白いんです。アルゴリズムはClassic Orange(Orange Vocoder 1998年オリジナル・アルゴリズム)を使用していて、オシレーターはDistorted SawとSawtoothを混ぜ、モジュレーションで微妙に揺らしています。そしてフィルター・バンクモードをUnvoicedにすることで人工の歯擦音を得ています。
[RoykBeatvoc01/RoykBeat02] ロイクソップのサウンドをイメージしています。ブレイクビーツなどのリズム系で使うことを前提としていますが、01はゆっくりなビートを入れた時に、切れ味が丁度良くなる様に調整しています。アルゴリズムはOrangeVoc 3(最新のOranage Vocoderアルゴリズム)を使用していて、オシレーターにはIndigo、そしてファインチューンをかけて音を少しふくよかにしています。コードを色々変えて欲しいプリセットですね。
02は、アルゴリズムはMR 1st order(マルチレゾリューション1次アルゴリズム)を使用していて、オシレーターにはDamped Sawを選び、2オクターブずらしたフィートです。和音を弾いても奇麗になる様に作ってあります。同じループでも、エンベロープのリリースを調整してやると、ダイナミズムが出てきますよね。イメージとしてはDJエフェクター。ハイパスやローパスをいきなり2ミックスにかける手法がありますが、それのボコーダー版がこのプリセットですね。ポイントは、オシレーター2だけゆっくりとモジュレーションをかけています。これで、不安定な感じも出ますしループでも飽きないですよね。色々試してみてください。
齋藤久師|シンセ・アーティスト
91年『GULT DEP』でビクターエンターテインメントよりメジャーデビュー。『Yセツ王』や松武秀樹率いるLogic systemなどに参加。あらゆる世界のヒットソングをチップチューン化するユニット『8bit project』ヨーロッパツアーを行う。neuron recordsより自身のユニット『pulselize』を連続リリース。またシンセ女子ことlena,neonの二人組のシンセユニット『galcid』もプロデュース。最新著書「DTMテクニック99(リットーミュージック)」も好評発売中。シンセを肴に呑み語る会『シンセバー』をプロデュース。musicianの視点からRoland社のAIRAの開発に深く関わる。
- 9月9日:galcid+齋藤久師/DOMMUNE生放送に出演
- 9月17日:galcid+齋藤久師+伊東篤宏/DOMMUNE生放送に出演
- 9月20日:galcid+齊藤久師/野外フェス”秘境祭2014″ @山梨県に出演
- 9月22日:galcid+齋藤久師/Eclectic in Tokyo@恵比寿BATICAに出演
- 11月には台湾公演。そして楽器フェアにてシンセジャム第三弾に出演
- 著書「DTMテクニック99」(リットーミュージック)好評発売中。
- Lenaと齋藤久師のユニット「pulselize」neuron recordsより発売中。
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サンレコ・レビュー
サンレコに「24種類のアルゴリズムを搭載するボコーダー・プラグインの最新バージョン」が掲載。レビュアーは自称「Zynaptiq信者」のBlacklolita氏です。果たしてバージョン4の進化とは!?
[サンレコのレビューを読む]
ORANGE VOCODER IVを試してみた
藤本健のDTMステーションに「超強力なボコーダーがMacだけでなくWindowsにも対応。ZynaptiqのORANGE VOCODER IVを試してみた」が掲載。果たして超強力なボコーダーとは!?
[ORANGE VOCODER IVを試してみたを読む]
Developer Interview
ドイツで設立されたZynaptiq。不可能をサイエンスで可能とするScience, Not Fiction、そのスローガンを唯一無二のMAPテクノロジーで具現化するZynaptiq GmbHのCEO、Denis Goekdag氏へ起業から開発コンセプトまでを独占インタビュー。
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