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Cycling '74 creates software for innovation and exploration.


Node/砂漠の老人

世界を行き交う人々の中継点、Node。そこにあつまる脈絡のない情報から、老人は世界のすべてを知っている。振動する地面、プログラムで描かれる異形の植物達。そこは破局の後の砂漠なのかもしれない


藤本隆行+白井 剛
Node/砂漠の老人(劇場版世界初演)

日時:8月23日(金)19:00
   8月24日(土)14:00
   8月25日(日)14:00
  ※23日・24日アフタートーク有
会場:愛知県芸術劇場 小ホール

■ 作品紹介
舞踏、コンテンポラリーダンスとデジタルテクノロジーを融合した最新作。3.11以後の日本が置かれる未曾有の現実を寓話的に表現する。白井のほか、70歳を超えてなお強靭な肉体を保つ舞踏家の吉本大輔、ダムタイプの川口隆夫と平井優子、ストリートや武術のテクニックを持つカズマ・グレンが出演。気鋭のプログラマー/SEが参加し、辺見康孝のバイオリン演奏と映像や照明との同期、リアルタイムの音生成など、多彩な演出効果を施すマルチメディアパフォーマンス。

■ アーティスト紹介
インディペンデントディレクター・照明デザイナーの藤本は、1987年よりダムタイプの照明・テクニカルマネージメントを担当、LED照明による有機的なデザインで自身の創作も行う。振付家・演出家・ダンサーの白井は、伊藤キム+輝く未来、Study of Live Works 発条トを経て、現在ソロユニットAbsTをベースに、様々な形態で身体と空間/時間のダンスを模索している。藤本と白井によるプロジェクトは、2007年の『true/本当のこと』に続く2作品目。

ディレクション・照明:藤本隆行(KINSEI R&D) 振付・出演:白井剛(AbsT)
出演:吉本大輔(舞踏-天空揺藍)、川口隆夫、平井優子、カズマ・グレン 
音楽・演奏(Vn.):辺見康孝

■ クリエーションスタッフ
映像・プログラミング:神田竜・大西義人・古館健
音響・映像:上條慎太郎
音響・プログラミング:松本明彦
ディバイス・プログラミング:稲福孝信
ディバイス・デザイン:森浩一郎
映像製作:飯名尚人・田中英行
衣装:北村教子
センサー開発制作:照岡正樹
プログラミングチーム・マネージメント:齋藤あきこ
制作・プロデュース:ハイウッド

あいちトリエンナーレ2013公式ホームページ
aichitriennale.jp
『Node/砂漠の老人』公演詳細
aichitriennale.jp/artist/fujimoto_shirai.html


ダムタイプのメンバーであり、照明アーティストとして意欲的な創作活動を続ける藤本隆行と、振付家/ダンサーとして高い評価を受ける白井剛による新しいダンス&メディア・アート作品「Node/砂漠の老人」。舞踏家、コンテンポラリー・ダンサーによる肉体的なパフォーマンスと、最新のデジタル・テクノロジーを駆使した照明/映像/音響演出を融合したこの作品は、2011年/2012年の大野一雄フェスティバル、今年3月のLIG ART HALL (ソウル)でクリエーションが公開され、世界中から高い注目を集めました。そして去る5月、KAAT神奈川芸術劇場で再度クリエーションの公開および公演が行われ、8月にはあいちトリンエナーレ2013において遂に劇場版の世界初演が行われます。70歳を超えてなお強靭な肉体を保つ舞踏家の吉本大輔、ダムタイプの川口隆夫と平井優子、ダンサーで武術家のカズマ・グレンらが出演し、気鋭のプログラマーが多数参加するこの作品は、メディア・アートに興味を持っている方ならば必見のプロジェクト。

そして、この作品の照明/映像/音響演出を支えるのがビジュアル・プログラミング・ソフトウェアのMax 6 + Gen。はたして今回の作品でMaxはどのような使われ方をしたのか。藤本隆行、白井剛の両氏と、音響プログラミングを担当した上條慎太郎(TMUG)、松本昭彦の各氏に今回の作品のコンセプトと音響システムについてインタビュー。

情報をテーマにしたパフォーマンス「Node/砂漠の老人」

—— 「Node/砂漠と老人」はどんな作品ですか
藤本 今回は、ある文化人類学者の作品のあとがきに書かれていた話がもとになっています。それはクレオールについての話で、英語とスペイン語の両方を使う中米圏の文化について書かれた内容だったんですよね。その中で特に印象に残っていたのが、オアシスの老人のエピソードだったんですよ。あるオアシスに老人がいて、そこにはたくさんのキャラバンがやって来てさまざまな“情報”を落としていくんですが、それを知ってもその老人は決してそこから出て行こうとしない。その話が何となくおもしろいなと思って、ずっと頭の中に残っていたんですよね。本を読んだのはだいぶ昔のことなんですけど……。それで今回、“情報”をテーマにしたパフォーマンスを作ろうということになって、ふとその老人の話を思い出したんです。そしてそれをもとに制作したのが、今回の『Node/砂漠と老人』なんですよ。

—— 情報をテーマにしたパフォーマンスというのはおもしろいですね
藤本 いろいろ調べてみると、人間が何事かを理解することは、データ、情報、知識、知恵という4つの段階に分けられるという考え方があるんです。もちろん、ほかにもさまざまな考え方はあるんですけどね。まず、“データ”についてですが、これはデジタル化できるので人と簡単に受け渡しができる。そのデータを組み直して、意味のあるものしたのが情報。そしてその情報を、自分の経験に照らして意味を持たせたのが知識で、ここまでいくと経験値が入ってくるので、なかなか簡単には人に受け渡すことはできない。訓練したり、師匠に教わって体で覚えることで何とか習得することができるものなんです。そして最後の知恵になると、完全に個のものになるので、受け渡しは不可能になる。今回の「Node/砂漠と老人」では、この理解についての考え方と先ほどの老人の話を上手く絡めて、パフォーマンスにできないかと思ったんですよ。

—— タイトルのNodeという言葉が意味するのは
藤本 何かと何かを結ぶNodeについて考えてみると、繋がりがあって情報のやり取りがあることがわかっても、あるNodeが他のNodeそのものを見ることはないんですよ。ということは、その世界がどれだけ広がって、自分がどれだけ繋がっているか、判断する術がないということなんです。それはオアシスから出たことのない砂漠の老人の話と繋がるなと思い、今回タイトルにNodeと付けてみることにしたんですよ。

—— 藤本さんのアイディアを最初に聞いたとき、どのような印象でしたか
白井 とてもおもしろいと思ったのですが、実際にパフォーマンスとして昇華させるのは難しいだろうなとも思いました(笑)。でも、おもしろそうだからやってみたいという気持ちのほうが強かったですね。砂漠があって、そこに老人がいて、いろいろな人がやって来ては去って行くというストーリーは、ビジュアル的にも映えるのではないかと。

藤本 白井さんとは前の作品「true/本当のこと」も一緒に制作して、その流れで今回もお願いすることにしました。最初に白井さんにお話をした段階では、砂漠の老人というコンセプトは決まっていましたが、どんな人がやって来てどんな情報を落としていくのかといったところまでは決まっていませんでしたね。今回、全体のディレクションを行ったのは僕ですが、細かい部分は白井さんに指示を出していただいています。

白井 内容がある程度具体化した段階で一度藤本さんに見ていただいて、そこでコンセプトとのズレを修正してもらいながら進めていくという流れでした。

LiddellとMaxで約30台の照明をコントロール

—— 照明アーティストとして今回、新しい取り組みは
藤本 特にないです(笑)。システムに関しても、LEDやMaxはもう10年くらい使っているものですしね。複雑なことはまったくしていません。具体的に説明すると、僕のシステムの核となっているのは、タマ・テック・ラボという日本の会社が開発したLiddellという自動演出システムです。このLiddellで、さまざまな信号をDMXに変換し、すべての照明とLEDを制御しているんですよ。シャッターの開閉もLiddellで行っているんですが、そのトリガーは僕が出すキューだったり、映像からのキューだったりしますけどね。最終的な出口となるのはLiddellです。

—— 照明を制御するシステムにLiddellを選んだ理由とは
藤本 もともと美術館や博物館で、映像や音声を再生しつつ照明制御もするために開発されたシステムなんですが、SMPTE同期できることを知って使い始めました。日本の会社の製品なので、要望を聞いて機能をアップデートしてくれるのがいいんですよね。例えば、2004年の「Refined Colors」というLEDを使ったダンス作品では、音響/プログラム担当として真鍋大度くんが参加してくれたんですが、彼と打ち合わせをしているうちにOSCが使えたらいいのにという話になったんですよ。その話をタマ・テック・ラボさんにしたら、すぐに対応してくれて。最初はごく簡単な制御しかできなかったんですが、その後もアップデートしていって、現在のバージョンではほとんどの制御をOSCで行えるようになりました。照明のキューのループを維持したまま、途中からOSCでLEDを制御するなんてこともできますしね。できないことがあれば、タマ・テック・ラボさんに話すと、すぐにアップデートしてくれます(笑)。

—— 現在もSMPTEを使いタイムラインで照明を制御しているのですか
藤本 いや、もうSMPTEは使ってなくて、現在はリアルタイムに制御しています。例えば今回、ヴァイオリンの音をフィルターで3つの帯域に分割してRGBに振り分け、その音に反応する形で照明の色がリアルタイムに変化するような仕組みを使っているんですが、どのあたりの周波数を使うかというのは照明の色を見ながら手動でコントロールしています。でも、すべてがリアルタイムというわけではなくて、映像や音を扱うスタッフの間ではOSCが飛び交っていて、それに合わせて照明が変化することもあります。その場のライブな制御と、あらかじめ決め込んだものの組み合わせによるパフォーマンスになっていますね。

—— 今回の作品ではどのくらいの数の照明を制御していますか
藤本 30台くらいですかね。ダムタイプの時は100台くらいの照明を制御するので、30台というのは少ないほうだと思います。ただ、今のところ30台に落ち着いていますが、今後は演出的に増やすこともあるかもしれません。

—— 照明アーティストにとってLEDの登場は大きかったですか
藤本 大きかったですね。いちばんはオン/オフの制御が速いことですよね。LED以前は、DMXでストロボ・ライトを制御していたんですが、LEDは光が持続しますし、色が変えられるのも良いですよね。デジタルでの制御もしやすいですし、色も256階調の中から指定できるのでPhotoshopを扱っているような感覚ですよ。ただ、これらはあくまでも照明アーティストとしての感想であって、作品自体のクオリティがどれだけ変わったのかはわかりません(笑)。とりあえず、僕自身は楽しんで使ってますよ。

Max 6を使いOSCによってキューを共有

—— 今回、最終的に技術スタッフは何名参加されましたか
藤本 映像が神田竜くんと大西義人くんと古館健くん、音響が松本昭彦くんと映像と音響の両方で上條慎太郎くん、ディバイスの開発制御と映像処理で稲福孝信くん、そして照明が私ひとりで、全部で7人ですね。あとはパフォーマーです。

—— 上條さんと松本さんが今回の作品に参加されたきっかけとは
上條 昨年の3月に韓国の釜山で行われた藤本さんの公演に、Maxオペレーターの代理として参加させていただいたんですが、それがきっかけでオファーをいただきました。最初に話をいただいたのは昨年の6月くらいですね。

松本 僕は昨年の9月、横浜のBankART1929で今回の作品のベータ版が上演されたときに、初めて藤本さんとお会いしたんです。その時点で音に関しては、ヴァイオリンが入ることくらいしか決まっていなかったみたいなんですが、やっぱりデジタル音響も必要だろうということで、楽譜も読めるプログラマーとして声をかけていただきました。

上條 松本さんは音楽的な話もできるので、ヴァイオリニストの辺見さんにとってはやりすかったんじゃないかと思います。普通のプログラマーって、そういう話ができませんからね。

—— 最初の段階では、音に関してはヴァイオリンが入ることしか決まってなかったわけですね
藤本 そうですね。作品世界を司る人物としてヴァイオリニストがいるということくらいしか決まっていませんでした。

松本 ですから最初は僕が作り貯めてあったプログラムや音楽を藤本さんと白井さん、辺見さんに、いろいろと見ていただいたんです。これはこの場面で使えるという感じでチョイスしてもらい、そこからまた新しいアイデアに発展したら新たにプログラムなり音楽を制作するという感じで、メンバーで意見交換しながら全体の音を構成していったんですよ。最初に試したのは、ヴァイオリンの音を変調させて、音域を拡張したりグラニュラー、ボコーダーなどのエフェクトをかけるというやり方。でも、これはあまりにもありきたりな手法で、モニター上の制約もあったので実際には使いませんでした。ベータ版の公演のときは試してみたりもしたんですが、システム的にヴァイオリニストへのモニターの返しに大きなレイテンシーが発生するという制限ができてしまったんですよね。ですので、演奏性を重視しヴァイオリンに関しては最終的には辺見さんご自身で足下のエフェクトペダルを経由した音がそのままPAから出力されるようになりました。今回一番使ったのは、サウンド・ファイルをセンサーで制御して再生するという手法ですね。具体的には辺見さんに筋電センサーを取り付けてもらい、手の筋肉の動きをオーディオ信号に変換して出力して、その情報を元にサウンド・ファイルをトリガーしたり音響処理したりしています。作曲面では辺見さんに即興演奏してもらい、それを聴きながら僕も音を出しっぱなしにしてMaxでプログラムを書き換えて、その結果を聴いてまたフレーズを組み立てたりといったように、言葉を交わさずに音を介して循環的なコミュニケーションをとりながら2人で感覚的に音を作っていった部分も多くあります。

藤本 前作でも筋電センサーは使ったんですが、人間の動きに合わせて映像や照明、音を動かすのはおもしろいなと。今回は辺見さんの動きで、鴉の鳴き声や水の音、ノイズなどをトリガーしました。また、ダンサーの動きをKinectで拾って、映像を投影したりもしましたね。

白井 パフォーマーによって、タイムラインに合わせて動くのが得意な人もいれば苦手な人もいるので、そのあたりは作りながら調整していきました。

—— 筋電センサーはヴァイオリニストの体のどのあたりに取り付けたのですか
松本 左手と右手の前腕の筋肉の付け根付近です。センサーからは、ライン・レベルのオーディオ信号として出力されるような設計になっていて、辺見さんが手にグッと力を入れると出力されるオーディオ信号の振幅が大きくなり、瞬間的に力を入れた場合はアタックのようなピークを持ったオーディオ信号が出力されるようになっています。そしてそのデータを解析してMaxのプログラミングで音作りや映像の制御に応用しているわけです。筋電センサーは照岡正樹さんの開発です。

—— 辺見氏からオーダーはありましたか
松本 筋電センサーだけでなく、ヴァイオリンの出力もトリガー信号として使ったのですが、ボウイングやピチカートのアタックの瞬間を拾ってほしいとか、こういう奏法のときはこうしてほしいとか、演奏家ならではの繊細なオーダーが結構ありました。ヴァイオリンにはピエゾのピックアップが搭載されているのですが、それだけではアタックが正確に拾えないので、アタック検出用に普通のマイクを使用したりとか。

—— サウンドのトリガーは筋電センサーとヴァイオリンの出力だけですか
松本 役者さんのワイヤレス・マイクの音声をトリガーにしている音もありますし、登場シーンなどでは手動でポン出ししている音もあります。しかし基本は、筋電センサーとヴァイオリンの出力によるトリガーですね。僕のMaxに入力されているのは、筋電センサーのLR、ヴァイオリンのピエゾの出力とマイクの出力、そして役者さんのワイヤレス・マイクの出力だけです。そしてMaxからの音は、RME Fireface UCXで出力しています。

—— 本番の段階では松本さんのオペレーションはフィクスしている感じですか
松本 そうですね。準備段階では音を出しながらパッチを作成していくので、その場で藤本さんから、さっきのあの音をここで使ってみようとかリクエストがあったりするのですが、公演の段階ではどの場面で何をするかというのはすべて決まっていますね。

—— 上條氏はどのようなオペレートを行っていますか
上條 僕は、言ってしまえば音のまとめ役ですね。ヴァイオリンの出力や松本さんのMaxから出力される音をミックスして、EQやコンプレッサー、リバーブ処理をしてスピーカーに送りました。今回、プリ・ミキサーとしてRMEのFireface UCXとTotalMix FXを使用したんですよ。シーンによってリバーブのオン/オフなどを切り替える必要があったので、Maxでプリセットを作成し、OSCでプリ・ミキサーのTotalMix FXを制御したんです。つまり、エフェクト等と共に出力ソースを自動で切替えています。それらTotalMix FXの入出力の管理やレベル設定、エフェクトの制御などをMaxで一括して行ったという感じですね。

—— MIDIとデジタル・ミキサーではなくOSCでTotalMix FXをコントロールした理由とは
上條 音や映像を扱うスタッフの共通のプロトコルがOSCだったからです。誰かが飛ばしたOSCをトリガーに、みんなのコンピューターの処理を切り替えていく。特に誰のコンピューターのOSCがマスターというのはなくて、そのときにベストなタイミングでOSCを飛ばせる人がマスターになるという。TotalMix FXはOSCで制御できるので、こういった環境で使用するミキサーとしてはベストな選択だったんです。ハードウェアのデジタル・ミキサーは別に設置してありますが、メインのミキサーは、あくまでもFireface UCXとTotalMix FXなのです。

—— 今回の公演で重要な役割を担っているMaxですが、Maxを使い続けている理由とは
上條 Maxのパッチというのは、コミュニケーションの言語になるんですよ。他の人がやろうとしていることをあまり理解していなくても、パッチを見れば大体はわかるというか。使いやすいことに加え、そういう意味でも便利なプログラミング環境だと思っています。今回の「Node/砂漠の老人」も、僕と松本さん、そして藤本さんが同じMaxというツールを使っていなければ、こんなコラボレーションになっていなかったと思いますよ。最近はoFやCinderなども流行っているので、他のプログラミング環境との連携についても勉強していきたいと思っているのですが、僕個人は9割方Maxですね。

松本 僕もいろいろ使ってきたのですが、最近はプログラミングに関してはMax以外使わなくなりました。Maxの一番の魅力は、簡単にいろいろなことが試せるところ。その昔Javaで10時間も20時間もかけて作ったものが、Maxだとコンパイルもせずに音を出しながらのパッチングで1時間くらいでできてしまう。このスピード感がいいですよね。それに映像やシリアル通信、DMXなど、音以外のデバイスやプロトコルにも簡単に接続できる点も気に入っています。

藤本 今回はヴァイオリンの音をフィルターで分割するのと、OSCのやり取り用に使いました。LiddellとMaxを繋ぎ、OSCでキューのやり取りしているんです。あとは原始的なんですが、字幕のポン出しにもMaxを使いましたね。Maxのパッチは人に作ってもらうことも多いんですが、簡単なものであれば自分で作成しています。

—— Max 6に搭載されたGenは使用されていますか
松本 もちろんです。Genによって、オーディオ処理に関するコードをパッチの中に書き込むことができるようになった。これまでは同じことをやろうとすると、Cでエクスターナル・オブジェクトを作成しなければならなかったので、これがものすごい手間だったんですよ。「Node/砂漠の老人」でもオーディオ処理にGenを多用していて、そういった意味ではMax 6が無ければ今回の公演は難しかったのではないかとすら思っています。

あいちトリンエナーレ2013で劇場版が世界初演

—— 今回の公演で苦労した点というと
松本 アート作品には定形というものがあまりないので、そういう意味では毎回完成形をどう描くかが大変ですね(笑)。しかし今回、一番大変だったのはPAだと思いますよ。会場とステージが音楽向きではなく、多くの制限がある中で音響に対する注文も多く、最大限良い音を作る必要がありましたから。

上條 そうですね。確かにPAはたいへんでした。あと僕的には、公演が始まるまではセンサーがいちばん気がかりでしたね。今回はダンスとヴァイオリン演奏というインプロビゼーションのパフォーマンスがソースのトリガーになっているので、最初から最後まで上手くいくか本当に心配でした。コンピューターがいちばん苦手なのは、突発的な信号がイレギュラーに送られることですからね。最近はいろいろなアーティストとの仕事で、Kinectなどのセンサーを使うことは増えているんですが、ここまでセンサリングと音にシビアなプロジェクトは初めてでした。そういう意味ではセンサリングに関するノウハウが得られた貴重な公演だったと思っています。

松本 本番では何が起こるかわからないので、トラブルが生じたら直ちに別の処理に切り替えるような対策はたくさん準備して おきました。例えば今回、ラジオをワイヤレススピーカーとして使ったんですが、会場の電波状況がよくなかったので、電波が受信できなかった場合はメインスピーカーから音を出すようにしておくとか、辺見さんの筋電が反応しなかった場合は僕が制御したり、作品を中断させないための対策はかなりしています。

—— 2011年の大野一雄フェスティバルで初めてクリエーションが公開された「Node/砂漠の老人」ですが、アルファ版、ベータ版を経て、ようやく完成したという感じでしょうか
藤本 アルファ版とベータ版では出演者も違っていて、シーンも異なるんです。アルファ版をアップデートしたのがソウルでの公演で、アルファ版とベータ版に参加した人達を集めて3週間くらいかけて作ったのが、KAAT神奈川芸術劇場での公演になるんですが、そこでようやく一応の要素は揃ったという感じですね。最初は作りながら自分でもどうなっていくのか分からなかったんですが、ようやく先が見えてきた。ようやく揃った要素をどうしていくかは、これから考えていければいいのかなと思っています。

白井 KAAT神奈川芸術劇場で3日間やってみての満足度は65点くらいですかね。この公演に入る前に話をしたときは夢が広がりすぎて、それを3週間で具体化できるのか不安だったんですが(笑)、最終的にある程度のところまでまとまったのではないかと思っています。

藤本 僕も60点くらい。きっと間に合わない部分もあるだろうと思っていたんですが、ひととおりの要素はまな板の上に並んだので、最低限の目標はクリアできたかなと思っています。多くの人が参加している作品で、みんなが揃う機会はなかなか無いのですが、これからいろいろとチャレンジできればいいですね。

上條 藤本さんがおっしゃったとおり、いまはようやく要素が出そろっただけの状態で、まだまだ開発は終わっていないという気がしています。個人的にはこれからどんどん改善していきたいと思っているので、一度観た人もぜひまた観に来てほしいですね。何度観てもおもしろい作品だと思うので。

松本 サウンド面では会場によってできることが変わってくるので、僕はサイトスペシフィックなチューニングが楽しみです。KAAT神奈川芸術劇場では、客席の下に空間があったのでサブ・ウーファーを天井方向に設置して超低周波のサイン波を出したりしたんですが、今後もその会場でしかできない最善の音を作っていければと思っています。

—— 8月23日〜25日に行われるあいちトリンエナーレ2013での公演は、KAAT神奈川芸術劇場での公演と同じメンバーで臨まれるのでしょうか
藤本 同じメンバーです。あいちトリンエナーレ2013で、すべてのオペレーションが固まれば、他の人に引き継ぎできるかなと考えています。本番までそんなに余裕があるわけではないんですが、KAAT神奈川芸術劇場での公演とは少し内容も変えてみたいと思っています。あいちトリンエナーレ2013の次は、9月に香港での公演が決まっていて、その後も順次海外で公演していく予定です。


藤本隆行|Takayuki Fujimoto
インディペンデントディレクター・照明デザイナー。1987年よりダムタイプに参加。07年、白井剛、川口隆夫、真鍋大度らと共に「true/本当のこと」を発表。海外も含めた多くのアーティストとのコラボレーションを行う。2012年、自身の創作活動の場として[KINSEI R&D]を設立。LED照明を含めたデジタルディバイスと人体との高密度の同期に焦点を当てた、有機的な舞台を構築している。
Web:www.facebook.com/KinseiRD

白井剛 |Tsuyoshi Shirai
振付家・演出家・ダンサー。伊藤キム+輝く未来、Study of Live Works 発条トを経て、現在ソロユニットAbsTをベースに活動。ソロから共同プロジェクトまで様々な形態で、身体と空間/時間のダンスを模索している。11年、山口情報芸術センター[YCAM]と共同製作したビデオダンスが文化庁メディア芸術祭にノミネートされるなど、映像や現代アート・音楽とも親和性の強いダンスで注目されている。

上條慎太郎|Shintaro Kamijyo
サウンドエンジニア/プログラマー。長野県安曇野市出身、東京芸術大学大学院映像研究科卒。映像,批評をVisualBrains、映画録音を堀内戦治に師事。主に録音技師,マイクマンとして国内外の映画作品に関わる傍ら、MA,プログラミング,マニュピレーション,PAなどコンピュータと既存メディアを繋ぐトータルな音響エンジニアとして活動している。Maxのユーザーグループ"TokyoMaxUsersGroup"とオンラインレーベル"+MUS"を主宰。
Web:tokyomax.jp

松本昭彦|Akihiko Matsumoto
作曲家、サウンドアーティスト。玉川大学芸術学部にて作曲、音楽理論を高岡明、キャシー・コックス、ジョナサン・リーに師事しアルゴリズム作曲や現代音楽を学び、東京藝術大学大学院先端芸術表現科で修士号を取得後、東京大学工学部研究員を経て現在はインディペンデントアーティストとして活動し、西洋音楽をリメイクするquelltll等のプロジェクトを行っている。またMaxプログラマーとして、渋谷慶一郎、evala、池上高志、大友良英、飴屋法水らのアート作品制作や大学、企業での研究開発にも携わっている。
Web:akihikomatsumoto.com