Mine-Chang|レコーディング・エンジニア
“UNFILTERはマスタリング・グレードのEQでもある”
複雑な問題を抱えたボーカル・ブースで録音されたボーカル素材や分離が悪いミックス。エンジニアならばどう対処するでしょう。ZynaptiqのUNFILTERならば、その問題点をリアルタイムに自動検出してビジュアル・フィードバック、そして逆フィルター機能で使える音に補正します。その音楽的な補正は、特別なトレーニングを受けていない人でも活用可能なのです。そんなUNFILTERを愛用しマスタリング・グレードのEQでもあると語るレコーディング・エンジニアMine-Chang氏がレビュー。ビフォー&アフターが分かるサウンド事例も要チェックです。
“エンジニア兼作編曲家として”
思えば、小さい頃から音楽にしろ何にしろ、芸術そのものよりもテクノロジーに興味が行く傾向があって、それは音楽もしかりで、高校時代でしたかギターを始めても読む雑誌はギター・マガジンではなく、どちらかと言うとサウンド&レコーディング・マガジンを読むタイプでした。そのサンレコで、当時聞き慣れない「ハードディスク・レコーディング」という言葉にやられてしまい、若干18歳にしてPro Tools IIIを導入しました(男の60回ローンで)。やはり、その当時は最新のプラグインに興味があり、例えばマルチバンド・コンプレッサーのTC Electronic Master Xで、カッコいいタムの音を作る方法や、Auto-Tuneやその他のピッチ修正プラグインの使い方などを研究しました。「そっちからかよ」って周りからよく言われました(笑)
数年後、とても運の良いことにスタジオ機材を運んで接続するアシスタントの仕事を得まして、音楽スタジオに潜り込むことができました。特に目標もなくダメな生活を2〜3年のんびりやっていた頃でしょうか、BENNIE Kのエンジニア/プロデュースのお仕事を頂けることになり、これまでに得た知識を自分なりに実践してきました。当時のスタジオでは、かなり自由に作業させて頂いた記憶があります。アシスタントが1日中付いてくれるスタジオでもワンマン・オペレート、13時に始めてもほとんど作業は12時間以上の朝まで。1曲を丸2日間ミックスし続けたりとか、僕だけじゃなく皆ちょっと頑張り過ぎだな、と久し振りに思い返してみました。ふと、当時は歌のコンプレッサーはTUBE-TECHのCL1を気に入って使っていたことを思い出しました。かなり記憶が曖昧になっていたので振り返るのも良いものですね、勉強になります(笑)。楽器はなんだかんだ触っている内にどうにか弾けるようになりました。理論も独学です。一度だけ理論の授業を受けてみたところ、目から鱗が落ちましたね(笑)。これは絶対習った方が早いなと自分を振り返って後悔しています(笑)
その後、いろいろ考えるところがありフリーランスに戻った所、studio formに所属しマネージメントをお願いできることになり、今は最高のスタジオ環境で作業することができとても満足しています。スタジオは厳しい世界でもありますので、自分を見つめ直すことができ、とても良いキャリアになっていると個人的にも思っています。
“プラグインは聴覚トレーニングにもなる”
これまでいろいろ経験してきて、プラグインは聴覚トレーニングにもなると思っています。例えば、ピッチ修正プラグイン。自動で直すモードで、もし上手くいかない場合はマニュアルで修正しますよね?そうしている内に、歌唱の音程の判断に必要な音感を習得することができます。演奏や歌唱の練習ではなく、プラグインの操作が音感を育てる例です。それと一緒で、EQでも音を探していると耳の感覚が育ち、鋭いQでブーストすれば問題の周波数がどこなのかが分かるようになります。Qの広いアナログのアウトボードで探るよりも、デジタルのプラグインならば何Hzといった数値も出るので、周波数の感覚を習得しやすいと思います。プラグインの登場によって、DAWをインストールしいくつかプラグインを買えば、誰もが簡単にエンジニアっぽいことができるのはどうなのかと言う風潮もありますが、プラグインの出現でエンジニアのEQ操作のテクニックがより習得しやすくなった、と考えれば良いのではないでしょうか。
僕自身も長年のプラグイン操作のおかげか、ピアノやバイオリンなどの英才教育は受けていませんが、我が家の食卓の茶碗とお皿を叩くと"ド"と"ソ"の音程を持つものが、案外多いことにすぐ気が付くことができますし(笑)、音を聴けば周波数を言い当てることができるようになりました。
“ボーカル・ブースは完璧ではない”
UNFILTERを導入した切っ掛けは、ある日スタジオのボーカル・ブースで女性ボーカルを録音してきたのですが、そのブースは狭い部屋特有の共鳴が目立つ変な響きになっていて、特定の音程の音量が異常に大きくなっていました。それをEQで探りながらカットを試みたのですが、コムフィルターのように問題の周波数がたくさんあり過ぎて、人力では非常に骨の折れる作業が必要だと感じました。一言で言うと面倒くさい(笑)。そこで偶然、UNFILTERのデモ・ビデオを見つけたんです。このビデオでは、ローパス・フィルターでこもってしまった音楽を元に戻すデモンストレーションで、何だこれはと思って(笑)。それで、早速デモ版をインストールして、問題の女性ボーカル素材をUNFILTERで開いて再生/分析しました。そうしたら、300Hzや500Hzに10dB位のピークがあることを画面に表示し、しかも探るのではなく、リアルタイムにカットし始めたのです。このプラグインは凄い、と思って即採用しました。
UNFILTER使用前:ボーカル・ブースで録音したままのボーカル素材
UNFILTER使用後:Mine-Chang氏がUNFILTERを使用して補正したボーカル素材
ボーカル・ブースって、壁面をグラスウールの様な吸音材にしていることが多いですよね。部屋すべての壁を吸音にした場合、これだと高音域しか吸音できず、ルーム・リバーブが付かない代わりに、ローパス・フィルターを通ったショート・ディレイが原音に足され、どんどん重なっていくのでモコモコした音になる。それを多重録音すると、よりモコモコが強調され団子の様な分離の悪い音になる。コーラスを多重録音しているとローカットしてハイを目一杯上げたくなることがあるかと思います。これは、ブースの特性がミックスの段階で、音を濁す影響が出てくる例だと思います。
UNFILTERはこれらの問題点を視覚化してくれるので、ボーカル・ブースの特性を自分の耳だけではなく、UNFILTERプラグインの解析結果と合わせて、より簡単に良い感じの音にすることができます。もちろん、UNFILTERが自動で上手に処理できない問題は、人力での解決(別なEQでの補正)も大事だと思います(笑)
“ボーカルのメロディー・ラインに合わせてUNFILTERがリアルタイム追従する”
UNFILTERは、問題を抱えた各トラックを緻密に補正するだけでなく、MixBusEQでも使えると思っています。普通は細いQでEQすると、位相など悪影響を与える気がするんですけど、UNFILTERは鋭くブーストしたりカットしたりしても音質変化が比較的少ないと思います。
そしてUNFILTERには、2Mixを良い感じにしてくれるプリセットがありまして、それを適用すると誰かがマスタリングした様な落ち着いた音像になりますね。どういう効果かと言うと、中音域の300〜700Hz、楽曲の調性の基本となる音程の周波数の音圧が過剰だと、分離の悪いミックスだという印象を与えます。というわけで、ミックス・エンジニアもマスタリング・エンジニアも各楽器のその部分を過剰な場合はカットするんですよね。
UNFILTER使用前:ボーカル&ミックス・バス例
UNFILTER使用後:Mine-Chang氏がUNFILTERを使用してロー&ミッドをクリーンアップしたボーカル&ミックス・バス
曲の調によっても録音状態によっても、問題となる周波数が何Hzなのか、幅はどの位かは様々です。本来それを耳で聴いて探す必要があるのですが、UNFILTERは自動で問題箇所を見つけて、人間の感覚的に良い音に自動で補正してくれる。スゴく耳が良い人が入ってるみたいに(笑)。さらに凄いのが、入力の解析がリアルタイムであること。問題となる場所が時間とともに変化(音程が動く)する場合や、複数の移動する音源やマイクが原因で時間変化するコムフィルターなど考えただけで頭痛がしてくるようなケースでも、オートメーションなしにUNFILTERは自動でかなり良い感じに補正してしまいます。
UNFILTER使用前:フルミックス例
UNFILTER使用後:Mine-Chang氏がUNFILTERを使用してロー&ミッドをクリーンアップしたフルミックス
“Zynaptiqの開発者達は音楽的才能を有したミュージシャン”
Zynaptiqは最新のテクノロジーを使っているわけですが、凄く音楽的でアイディアが素晴らしいと思います。Zynaptiqの製品を使っていると、新しい音を作るというか、インスピレーションが湧くというか、開発している人達の音楽的才能を感じます。周波数の過剰な部分と足りない部分を、機械的ではなく人間の耳の様に探すことができると言うか、スペアナ的なFFTとかで見てもどこが山で谷なのか分からないはずなのに、人間の感覚でここが過剰だと認識する所をUNFILTERは見つける。例え人間にとっても、これはかなり難易度の高い判断能力だと思います。

Mine-Chang|レコーディング・エンジニア
今井了介氏のプロダクション・アシスタントとして業界キャリアをスタート。数多くのセッションを見学する事でエンジニアリング、プログラミング等の音楽プロダクションに必要なスキルを習得。自身でトラックメイク/作曲/ボーカル・ディレクション/ミックスを行うスタイルで、Tiny Voice Production/StudioVisionを拠点に楽曲制作を行う。Hip Hop/Houseなどシーケンス主体のアレンジと、シンプルなギターサウンドを融合するサウンドで、アーティスト、BENNIE Kをプロデュース。そのコンセプトが受け入れられ、ヒットとなる。楽曲「Dream Land」は、コカ・コーラ社CMに採用され、アルバム『Japana-rhythm』はオリコンチャートで1位を獲得。この頃よりミックスエンジニアのみのオファーも増え、多くのヒット曲に携る。同社退社の後prime sound studio formのレコーディング・エンジニアに。
- Mine-Changプロフィール|[prime sound studio form]
- Mine-Changリリース情報:須藤元気「Missing Beauty」
DL版:44,000円
(オープンプライス:STORE価格)
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Zynaptiq解説動画
アーティスト/YouTuberのライムロレンソ氏がINTENSITY/UNVEIL/UNFILTERをミュージシャンや動画クリエイター向けにレクチャー!不可能を科学で可能とする、正にマジックの様なサウンド処理を是非ご覧ください。
ZAP III、REPAIR、MASTER
UNFILTERはZynaptiqプラグイン・バンドルの ZAP IIIバンドル、REPAIRバンドルおよびMASTERバンドルにも収録されています。
Mine-Chang
様々なフィルター効果による影響をリアルタイムに改善するUNFILTER。このUNFILTERを愛用しマスタリング・グレードのEQでもあると語るレコーディング・エンジニアMine-Chang氏がレビュー。ビフォー&アフターが分かる、この記事のために制作されたサウンド事例も要チェックです。
[インタビューを読む]
木村健太郎(KIMKEN STUDIO)

今回試すのは同社のUnfilter。リアルタイムで不自然な音を解析して、自然な音にする効果があるそうです。その名の通り、”フィルター効果を除去する”のが主目的で、例えばノイズ除去処理や過剰なEQなどで音質が変わってしまったファイル、あるいは反射の影響で音色そのものが変わってしまった録音などを、本来あるべきリニアな特性へと補正するのに適しています。ただ、そうした補正にとどまらない機能もたくさん備えているようです。使用しながらどういうものなのか確めていきたいと思います。
[木村健太郎氏のレビューを読む]
Developer Interview

ドイツで設立されたZynaptiq。不可能をサイエンスで可能とするScience, Not Fiction、そのスローガンを唯一無二のMAPテクノロジーで具現化するZynaptiq GmbHのCEO、Denis Goekdag氏へ起業から開発コンセプトまでを独占インタビュー。
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