原田郁子 x 西川一三

原田郁子 x 西川一三

OC818にはインスピーレーションをたくさんもらっているし、Hi-X65はシンバルが擦れる音や唇が離れる時のリップノイズまでも聴こえる

 

OC818との出会いが二人の "ライブ配信の音" に対する意識を変えた!?

ジャズ、ポップ、エレクトロニックと様々なジャンルを吸収した自由かつテクニカルな魅力を放ち、唯一無二の存在感で20年以上の長きに渡ってインディシーン、メジャーシーンを選ばず幅広い音楽ファンから愛され続けるバンド「クラムボン」のボーカル・鍵盤を担当し、ソロ活動でも評価の高い原田郁子、そしてそんな彼女をクラムボンのデビュー前から舞台裏から支え続けてきた、業界の重鎮として知られるサウンドエンジニア西川一三。

そんなお二人に、"配信での音作り" におけるターニングポイント的な存在となったマイク「OC818」との出会いや、ライブ配信を通しての使用感、そしてフラッグシップのヘッドフォン「Hi-X65」を試してみてもらった。

 

—— 原田さんと「OC818」の出会いについて教えてください。またサウンドや機能性など、どのような点が気に入って導入されたのでしょうか?

原田郁子Austrian Audio OC818の魅力を語る原田郁子氏

 

原田:2020年、コロナでライブが全然できなくなって、すごく時間ができまして。パソコンを使って自分で曲を作る「宅録」を始めたんですよね。西川さんに借りてずっとライブで使ってきた「NEUMANN」のダイナミックマイクで録音していたんですが、何か新しいマイクがほしいなと思うようになりました。吉祥寺に妹がやっている「キチム」というイベントスペースがあって、やはりライブができなくなって大打撃を受けてしまったので、他のライブハウスの皆さん同様、ライブ配信をはじめてみようということになって、映像機材を揃える中で、レコーディングエンジニアの星野誠さん(クラムボンのアルバム「id」「imagination」「てん、」「LOVER ALBUM」「Musical」の録音、ミックスを担当)に相談したんです。「なにか面白いマイクありますか?」って。

いくつか挙げてもらったのですが、Austrian Audio の「OC818」がすごく良いですよ、「OC818 Live Set」という2本セットもありますよー、と教えてもらって、ホームページと動画を見て、「これだ!」と。直感的に、2本あると面白いことができそうだなって。名前に「Live」って入っているのもいいですよね。鬱屈とした気持ちとエネルギーが、何かポジティブな方向に転換できそうな予感もあって、あの時、星野さんに教えてもらえて本当に良かったです。

—— Austrian Audio のマイクは全て、差が1dB以内に調整されているので、どれを使ってもステレオペアで使えますからね。

原田:そうですね。マイクが届いてすぐ星野さんにキチムに来ていただいて、さっそくアップライトピアノとボーカルを録音してみました。

—— 実際に使ってみていかがでしたか?

原田:すごく素直だなぁと。オンマイクではなくてアンビっぽく少し離して2本立ててピアノを録ったのですが、空間に響いてる感じがそのまま伝わってきて、嬉しかったですね。ボーカルも声の乗りが自然で歌いやすかったです。

OC818で収録した「アップライトピアノ」

 

西川:ちょうど僕も、PA の仕事がイベントごともライブも何もなくてどうしよう……となっていた際に、皆が配信をし始めて、全てではないのですが「配信ってこんなに音悪いの!?」って気付いたんです。それまでライブ会場の音だけ考えていたので、配信の音は気にしていなかったんですよ。でも、いざ自分がそういう立場になり、お客さんがいない中で配信ライブをやり始めたときに、めちゃくちゃ音悪いな……って(苦笑)。

原田:みんな模索しながらでしたね。

 

キチム キチムにセットアップされたアップライトピアノとAustrian Audio OC818

 

—— 高音質配信を謳っているプラットフォーム等もありますが、収録する機材も良くなければ、結局音は良くならないということなのでしょうか?

西川一三 ライブ配信でのエアの重要性を語る西川一三氏

 

西川:それもあるんですが、ライブのライン録りと言われるものが原因ですね。PA ミキサーでミックスされた音を、レコーダーで録っているだけなんです。大体の場合、配信のときにはエアのマイクが何本か立ってるんですが、こちらはその混ぜ方とかが分からない。もちろん、その専門業者もあるんですが、アーティスト事務所さん等は「PA の方でやってください」みたいな。で、いざそれをやって、配信の音を聴いてみたら「あれ?」「これは、何が起こっているんだろう?」ということになっていて……。

エアのマイクを立てて、エアに入ってきた音とミキサーからのライン録りのタイミングは、絶対にずれるんですよ。ミキサーから録った方が音が早くて、エアのマイクに入ってきた音はスピーカーから出た音なので、遅れるんですよ。そこのタイミングが合わないのでおかしなことになるのではないか、ということで、まず最初にそこを合わせることから始めたんです。

そのときに、エアのマイクというのはとても重要になるんですが、郁子ちゃんが持っていた「OC818」の音を「キチム」でのピアノの音で聴かせてもらったら「エアだけどこんなに良い感じで録れるの!?」と驚いて、これを配信で使ったら良いんじゃないの、と借りて使い始めたら、凄く良かった。

原田:西川さんは本当に革新的というか、ライブ配信というものを皆が手探りで少しずつやり始めた早い時期から、"箱鳴り" や "音圧" を大事にしようとこだわっていたんですよね。もちろんライブ会場でダイレクトに感じられる音ではないわけだけど、そこにどうしたら臨場感を生み出せるかって。クラムボンが初めて生配信したときも、「OC818 Live Set」を使ってましたね。

 

西川:そういうシステムを作って、そのミックスはツーミックスとエア4本混ぜるだけなんですが、そこにも非常に大事なことがいっぱいあるので、レコーディングエンジニアの人に来てもらってミックスをお願いしました。世に出回っている "ライブ盤" って、ライブ会場の音というか、ライブ会場風の音であって、ちゃんと聴こえはするんですけど、遠くで音が鳴っていてはっきりしていないものが多い。ライブの音って、あんな音じゃないと僕は思っているんですよ、もっとタイトで、音圧がドーンと来て、音がはっきりしていて、広がっている。それを作りたかったんです。

原田:クラムボンだけでなく、フィッシュマンズが「キチム」でトークとアコースティックライブを生配信したときも、「キチムフェス」(高野寛 × 寺尾紗穂、湯川潮音 × オオヤユウスケ、原田郁子 × U-zhaan というデュオ編成で行われた配信ライブ)のときも、フィッシュマンズがリキッドルームで 2 days のライブ("HISTORY Of Fishmans" 1991-1994 & 1995-1998)をやったときも、西川さんが PA をやってくれる現場、映像配信がある現場では、いつもこの「 OC818 Live Set」が立っていたと思います。

原田郁子 x 西川一三 ライブでの使用例を語る原田郁子氏と西川一三氏

 

西川:今でも PA の仕事はもちろんメインでやっているんですが、配信のミックスだけしにいくようにもなりましたが、やはり皆、こんな風にできるんだ、というのを、聴けば分かってくれるんですよ。それで、仲間の PA さんなどが興味を持って仕事を頼んでくれるのですが、そこでは常に「OC818」を使っています。絶対にあのマイクじゃないとヤダ! って思っているぐらい、あのマイクをずっと使っています。本当は4本欲しいです(笑)。めちゃくちゃ良いですもんね、ちょっとこのマイクは普通じゃないと思いました。

原田:演奏する側のミュージシャンからすると、やっぱり慣れないんですよね、配信って。特に無観客というのは、ライブというより撮影に比重が傾くし、いつもとは違う緊張感があって。でもそこに、さっき話した "会場が楽器" というような、その場所の鳴りが含まれてくれていると、凄く安心できたんです。なんていうんだろうな、あのラインだけの音の恥ずかしさって……。

西川:なんか、 "素" だよね。

原田:そうそう(笑)!

—— そんなに恥ずかしいものなんですか!?

原田郁子 x 西川一三 Austrian Audio OC818とHi-X65でのレコーディングを試みる原田郁子氏と西川一三氏

 

西川:もちろんそこにはエフェクティブなものもあって、リバーブもかかっていたりするけれど、なんか…… "素" なんだよね。

原田:そうだね。何かがものすごく足りない。無観客だと、表のスピーカーを鳴らさない現場もあったり。

西川:そうそう、多かったよね。僕は「どうしてもスピーカー鳴らしてくれ」って凄い拒否したけどね。どうしてもそれをエアのマイクで拾いたい。それができないところは、サンプリングリバーブとか使って、擬似箱鳴りを作る、っていう。

—— 表のスピーカーの使用を拒否されるというのは、うるさくなっちゃうからダメ、みたいなことなんですか?

西川:いや「今日はスピーカーなしで!」って……なんかもう、分かってないんですよね、そういう人たちって。「ライブ来たことあります? そういうことじゃないんですよ!」みたいな(笑)。まあ、分かってくれないので、もうそこは従うしかない。特にイベントの配信とかは「分かりました」としか言いようがない。

 

原田:"空間が鳴ってる" のを感じながら、演奏する者も、スタッフも、お客さんたちもその場にいるんだと思うんですよね。あの塊感というか、ライブ感というか、"音圧" を感じられるかどうかはすごく重要で。皆そうしたら良いのに、って思うぐらい。

西川:いやほんと。でもそこまで考えている PA さんもあんまりいないかもしれない。バランス良くミックスできれば良い、という点で「エア混ぜるのはもう配信業者さんがやってください」みたいな姿勢の方は、比較的多いです。でも、こだわっている人は自分でやっているという感じですね。

 

—— そこにこだわり始めてしまうと難しいからですか?

西川:ミックスしながらこちらの音の管理、となると、なかなか一人でできるような作業じゃないんですよね。まあ、やるしかないんでやるんですが……。

 

—— 西川さんは一人でされてるんですか?

西川:一人でやる場合もあります。予算があればもちろん人に頼んでやってもらいたいんですけど。まあ、でもそれをやらないとダメかな、と僕は思うので。 ただ、「OC818」と出会っていなかったら、こういう気持ちになっていたかも分からないんで、あのマイクのお陰でもあるんです。

 

—— 配信等の音に関して、そのような考え方に至った理由の一部は「OC818」にある、と。

西川:そうですね。いわゆる音圧だったり、空気感を出すために無理やりそういうイコライジングすると、いらないところがあったり、こんな音は会場で鳴っていない、というような不自然な音になったりするので、それらを処理をしなきゃならないんですが、このマイクを使うと “そのまま” な感じになる。「OC818」との出会いは、結構大きかったですね。

原田:わぁ。すごいな。自分もこのマイクにはインスピーレーションをたくさんもらっているんですが、西川さんもそうなんだと改めて知れて、すごく嬉しい。もちろん西川さんのこれまでの経験値があってこそなんですけれど、きっと相性が良かったんだろうなって。世界を見てもこのマイクをこんなに生かして配信の音をつくっている人いるのかな。いたらぜひ対談してほしい(笑)。

—— 今回、Austrian Audio 初のハンドヘルドヘッドフォンのフラッグシップモデルの開放型(オープンエア)の「Hi-X65」、密閉型(クローズド)の「Hi-X60」もお試しいただきましたが、使用感等はいかがでしょうか?

Austrian AudioフラッグシップのHi-X65(右)とHi-X60(左)

 

西川Hi-X65、圧倒的でした。素晴らしい。これ、物凄い下までローが出てますよね。これがオープンエアだって分かってなくて聴いていましたが、空気感が凄くあって、ライブのサブウーハーみたいなローがちゃんと聴こえるのがとても良かった。ハイの音は、いろんな音源聴いてみて面白かったのが、シンバルのドラムスティックのチップ部分とシンバルが擦れる音が聞こえるのよ、これ。

原田:原田:うわぁ、わかる! 唇が離れる時のリップノイズも。

西川:僕、自分の耳の基準になっている、25年以上ずっと使い続けているヘッドフォンがあるんですが、それだとそこまで聴こえないんですが、「Hi-X65」だとちゃんと聴こえるんです。

 

原田郁子 x 西川一三 Austrian Audio Hi-X65の魅力を語る原田郁子氏と西川一三氏

 

—— 原田さんは特徴のあるボーカルとピアノの音が印象的ですが、そういったジャンルの曲と Austrian Audio のヘッドフォンの相性はいかがでしょうか?

原田:クラムボンの曲には、生演奏のふくよかさが生きる曲と、ミト君がトラックを打ち込んだエレクトロニックな曲と両面ありますが、どちらにも相性は良いんじゃないかな。このヘッドフォン自体が、ジャンルを選ばない感じですね。

西川:どれも良かった気がする。うるさめのギターのやつとかも、全然良い。

原田:長くパソコンで作業しているときなどは、十数時間とか作業しているので、疲れないことも重要なんですが、色々聴いてみて、耳への圧迫感や音の感じが柔らかいんですよね。凄く良かったので、使ってみようかな。

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クラムボン

クラムボン

 

福岡出身の原田郁子(vocal,keyboard)、東京出身のミト(bass,guitar,composer)、 北海道出身の伊藤大助(drums)が音楽の専門学校で出会い、1995年にバンド『クラムボン』を結成。 シングル『はなれ ばなれ』で1999年にメジャーデビュー。当初よりバンド活動と並行して、各メンバーのソロ活動、別ユニット、別バンド、楽曲提供、プロデュース、客演など、ボーダレスに活動を続けている。 2003年に自身らの事務所『tropical』を設立、また山梨県小淵沢にスタジオの制作、2010年よりサウンドシステムを保有しライブハウス以外の会場で全国ツアーを開催。2015年には結成20周年を迎え、9枚目のオリジナルフルアルバム「triology」を発表し、キャリア初となる日本武道館公演をおさめた。 2016年より自身のレーベル「トロピカル」で『モメントe.p.』を発表。ライブ会場限定で CD を販売しサイン会を行う全国ツアーを開催。そこで一般流通を介さず活動に賛同してくれる店舗への直接販売を開始する。2017年『モメントe.p. 2』、2018年『モメント e.p. 3』と続き、これまでにジャンル問わずの約300店舗にまで広がりを見せている。DVD、アナログレコードも追加され現在も販売・募集は続いている。 2021年8月には東京2020パラリンピック開会式へ楽曲提供を行った。今年2022年は新たに『モメント l.p.』のアナログレコードをリリース。7月放送の TV アニメ『ユーレイデコ』の OP 主題歌をクラムボンが担当する。また、7〜9月に自主企画イベント『clammbon faVS!!!』を7月から3ヶ月連続開催する。
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西川 一三

西川 一三

 

音響技師 / PA エンジニア。1990年代初頭、心斎橋クラブクアトロでキャリアをスタート。全国のライブハウスはもとより、スタジアムクラスのライブ、フジロックなどのフェスなどでライブ PA を担当。現在手掛けているアーティストは Suchmos やクラムボンら。ミュージシャンが望む音像を会場で再現するその職人的センスは多くのクリエイターに支持されている。直近の担当作に Suchmos『THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』(F.C.L.S./Ki/oon Music)

 

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