森元浩二.

森元浩二.

レコーディング&ミックス・エンジニア

最高水準の性能を誇るOC-S10の低歪み、高耐音圧、リニアリティー、クラリティーは制作における強い武器になる

 

Austrian Audioは、2017年にAKGアコースティックスのウィーンオフィスが閉鎖された際、その元従業員たちによって設立されました。AKGが持つ伝統的な技術や、「ウィーン・サウンド」とも称されるニュートラルで自然なサウンドの哲学を受け継ぎながら、現代のデジタル環境に対応した革新的な製品を開発しています。2019年に最初のマイクOC818を発売して、その後シングルダイアフラムのOC-18やペンシルタイプのCC8を発売、レコーディングスタジオの標準的マイクとしての地位を得ています。

Austrian Audioから、新たにOC-S10が登場しました。「S」は「ソロ」を意味し、ソロ楽器や単一音源の録音に特化した多機能リファレンス・レコーディング・マイクとして位置づけられています。

OC-S10の主な特徴を見てみましょう。指向特性は5種類、無指向性、ワイドカーディオイド、カーディオイド(単一指向性)、ハイパーカーディオイド、双指向性から選択できます。出力はOC-818と同じく、前後2枚のダイアフラムからの信号を独立して出力できます。周波数特性は20Hz–22kHzの広い周波数範囲で、8 dB SPL (A)という非常に低い等価騒音レベル(セルフノイズ)を実現しています。パッドは-10dB、-20dBの設定があり、高音圧な環境でアンプが歪むのを防ぎます。カプセルはAKGの伝説的な「CK12」の設計思想を受け継ぎ、フレームをブラス製から更に強固なセラミックにした、CKR12デュアル・セラミック・カプセルを搭載しています。その強固なセラミックスフレームのおかげで、最大SPLは147 dB SPLでラージフラムコンデンサーの中では極めて高耐音圧で、パッドを使用することにより157 dB SPLを超高音圧に耐えることができます。


CKR12デュアル・セラミック・カプセル

 

AKGのC12(1953年発売)は、その特徴的な細長いチューブボディと、優美なヘッドグリルで知られる象徴的なデザインを持っています。これは、ヴィンテージマイクの黄金時代を象徴するデザインであり、今日の多くのハイエンドマイクが意図的にこのスタイルを踏襲していますが、Austrian AudioはあえてC12のデザインを引き継ぐことなく、OC-S10は音響的な性能と製造の合理性を最優先しています。内部の音響特性に最適化されており、機能性と近代性を追求した、クリーンでモダンなデザインを採用しています。

OC-S10は、OC818と同様にマイクのデュアル出力モードを搭載しています。これは、前後2枚のダイアフラムからの信号を独立した2つのトラックに録音し、専用の無償プラグインPolarDesignerを使用して録音後に指向特性を自由に変更できる機能です。本体下部のXLR出力は2つあり、メインに接続されていないと裏側のダイアフラム出力にXLRは挿せない構造になっており、誤接続を防いでいます。このPolarDesignerプラグインは、DAW上で無指向性から双指向性まで255段階の指向性をデザインできるだけでなく、最大5つの異なる周波数帯域(バンド)に分割し、それぞれのバンドに対して異なる指向特性を割り当てて調整することが可能です。これにより、低域を無指向性にして豊かさを出し、高域をハイパーカーディオイドにして部屋の響きを抑えるといった、周波数帯域ごとに最適化されたサウンドメイクをミックス段階で行えるため、レコーディング時の部屋の響きや音源の分離が完璧でなくても、最適な指向性を後から選ぶことができます。


OC-S10のデュアル出力

 

今はスタジオでの楽器録音の機会も減っていますし、実際の録音時も色々とマイクセッティングや指向性を調整する時間もないので、指向性を後で変更して指向性でこれだけ音質が変わるというのを、簡単に体験できることは本当に素晴らしい事です。著者が最もその機能の素晴らしさを実感するのは、ライブ収録のオーディエンスマイクとしての使った時です。ミックスの際にライブのオーディエンスマイクの音処理は低域を切ることから始めます。マイクの前後に入る同じ音は双指向性にすることによりキャンセルされ収録されません。PolerDesignerで低域を双指向性にする事により、EQを使うことなく低域をキャンセルすることが出来ます。一般的なマイクで双指向性にした場合もマイクの周りの低域はキャンセルされますが、ステージ側の後部からの反射も録音されてしまいます。帯域別で指向性を変えられるAustrian Audioの独壇場になっています。またOC-S10はソロ楽器用マイクということで、重要なポジションのマイクなので、指向性を後で変更出来るという事がどれほど音楽的に有り難いことだと使ってみると判ると思います。先に述べましたが、カプセルCKR12のフレームがセラミック製であるため、解像度が高くクリアで繊細さがあり、低域は誇張のない正確な音、高域はオープンで耳に痛いような変な強調がない、自然な伸びが特徴です。またギターアンプのオンマイクセッティングや、ドラムもオンマイクでも歪むことなく、リニアな音を収録する事が出来ます。


PolerDesignerプラグイン

 

某有名マイクと歌で比べてみましたが、とにかく余計な色付けが少ないクリアーな歌が録れます。最大SPLが147 dB SPLあるため、他のマイクで歪んでしまう声量を持ったシンガーでも安心して使えます。一般的な歪が多いマイクに慣れているシングーに、「クリアーすぎる」と言われる事がありましたが、モニタープラグインで歪を少し足すことにより、最初からひずみのあるマイクよりも、良い結果を得られました。アコースティックピアノでは、強いアタックに負けることなく、クリアで広いダイナミックレンジを持つため、クラシックからロックまで幅広い音色に対応できます。ストリングスの録音で、その中で特にバイオリンなどのソロ演奏の場合のマイキングが非常に重要です。ピーキーな音、柔らかい音の録音方向を決めるのは指向性が最も大切です。しかしそこに時間をかけるのは良くありません。ここでもやはりPolerDesignerがいい音楽に貢献してくれます。ベースアンプ、ギターアンプでのオンマイクでは、スピーカーからの音圧、風に負けることなく正確な音が記録できます。今は歪などの音色付加はDAW上で後処理が出来るので、最高水準の性能を誇るOC-S10の低歪み、高耐音圧、リニアリティー、クラリティーは制作における強い武器になるでしょう。


森元浩二.

エンジニア、ミキサー。1985年〜リットーミュジック Avic Studio。1987年〜サンセット・ミュージック。1991年〜Studio Sound DALI。1999年〜I to I Communications。2002年にAvex Music Creativeのスタジオ、prime sound studio formを設立。チーフエンジニアとして現在に至る。2003年 浜崎あゆみ「No way to say」。2015年 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「Unfair World」でレコード大賞を受賞。Every Little Thing、AAA、E-Gilrs、チャラン・ポ・ランタンなど年間120曲以上の曲をミックスしている。

公式サイト
form-studios.com

 

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