林ゆうき
ストロベリーナイト、リーガル・ハイ、BOSS、あさが来た、ガンダムビルドファイターズなど、テレビ・ドラマや映画/アニメの劇伴制作を数多く手掛ける林ゆうき氏は、10代に男子新体操の選手として活躍し、大学時代に自らの演技の伴奏曲を作るために音楽制作を始めたという異色の経歴を持つ作曲家。劇伴作曲家として活動を始めてから、制作プラットフォームにDAWソフトウェアを導入し、安定した動作性能を求めてPreSonusのStudio OneにSWITCH。そんな林ゆうき氏に、男子新体操選手から作曲家に転身した経緯や、劇伴作家ツールとしてのStudio Oneの魅力を独占インタビュー。
“Studio Oneは粒が見える立体的な音に聴こえた”
Studio Oneのサウンドは、粒が見える立体的な音に聴こえた
最初はミュージ郎に付いてきたSinger Song Writerで、その後SONARを使い始めました。コンピューターはWindowsで、音楽やっている人って皆Macじゃないですか。僕は天の邪鬼な性格なので(笑)、WindowsとSONARという組み合わせが結構気に入っていましたね。でもちょっと動作が不安定だったんですよね。そんな時に知り合ったのが音楽プロデューサーの浅田祐介さんでした。浅田さんと知り合ったのもひょんなことがきっかけで、一緒に新体操をやっていた友人が車のディーラーをやっていて、浅田さんがそこのお客さんだったという(笑)。今日、音楽プロデューサーの人が来たから、お前のことを話しておいたよって友人から連絡があって(笑)。それで浅田さんにお会いして、いろいろお話させて頂いたのですが、その時にStudio Oneのことを教えて頂いたのです。新しいDAWだけどすごく良いって。早速体験版を試してみたら確かに良さそうだったので、一気にStudio Oneにスイッチしてしまいました。Studio Oneのバージョンは、確か1.5でしたね。
最初は難しいソフトウェアなのかなと思ったんですよ。でも実際はすごくシンプルで、ほとんどの操作がドラッグ&ドロップで行える点が気に入りました。僕は、最初に説明書をしっかり読む方ですけど、Studio Oneに関しては説明書を見なくても、基本的な操作が一通りできたんですよ。浅田さんからStudio Oneは音も良いよ、と聞いていたので、最初に同じピアノ音源を立ち上げて聴き比べてみたのですが、確かに結構違っていて。音が良いというよりは、僕には何か立体的な音に聴こえたんです。凄い前に出てきてくれるなと。音の粒が見えるというか、クリアに聴こえた感じがしましたね。なるほど、これはいいかもと思いました。

Studio Oneの魅力を語る林ゆうき氏
劇伴のストリングスを作る時って、最初に1本のトラックの中でアレンジしてから、後で楽器毎にトラックを振り分けていくのですが、Studio Oneはその作業が凄くやりやすい。ピアノ・ロールでヴァイオリンの部分だけを囲んで、別のトラックに瞬時に移すことができる。今までは範囲選択をしてからいちいちコピー&ペーストしなければならなかったわけですけど、Studio Oneだと同じ操作が一瞬で行える。これは作家寄りというか劇伴制作に向いているDAWだなと思いましたね。
よく使うのはSpectrasonicsの御三家、Omnisphere、Stylus RMX、Trillianと、Native Instruments KONTAKTのライブラリーです。ドラムは大抵XLN Audio Addictive DrumsとStylus RMXで、人には変わっていると言われますが、僕はStylus RMXにREXライブラリーを読み込んで使うのが好きなのです。ベースはTrillianを使うことが多いです。ストリングスでよく使うのはAudiobro LA Scoring Stringsですね。ブラスはCinema Brassなのですが、生にレイヤーすることが多いので、混ぜやすいところが気に入っています。最近のライブラリーでは、Outputのものが気に入っています。新しいボーカル音源のExhaleもすごく良いですね。最近はKOMPLETE KONTROLのコントローラーを使ってOutputの音源に表情を付けるのがとても楽しいです。WavesのバンドルとiZotope Ozone、Alloy、飛び道具的に使うSugar Bytesのものなどいろいろ入れてありますが、最近はStudio One標準のものを使うことが多いです。例えば浅田さんもよく使っているというX-Tremは、いわゆるトレモロ・プラグインですけど、パンナーとして使っても面白いのでディレイと合わせ技で使ったり..。あとはディレイやコンプレッサーもStudio One標準のものを多用していますね。
“Presence XTやスクラッチパッドはクリエイターの気持ちを理解した機能”
Presence XTやスクラッチパッドは、クリエイターの気持ちを理解した機能

Studio Oneでエディットを行う林ゆうき氏
新しい機能はバージョン1から2になった時の方が多かったと思うのですが、皆がFacebookコミュニティとかで言っていたバグが、ことごとく修正されているのが嬉しいですね。Studio Oneというと、シンプルで音が良いDAWというイメージがあると思うのですが、僕はすごくユーザー寄りのDAWだなと感じています。バグの修正が早いのもそうですが、ユーザーが要望した機能が次のバージョンで早速実装されるなど。皆の声が届くDAWというか、個人的にはそれが一番気に入っていますね。
バージョン3で特に気に入っているのは新しいソフトウェア・インストゥルメントのPresence XTですね。僕はモバイル用のMacBook AirにもStudio Oneを入れていて、旅先で曲をスケッチする時に使ったりしますが、バージョン2までは音源が弱かったので、やっぱり作業場でやらないとダメだなと思うことが少なくなかった。しかしPresence XTはすごく良いので、旅先でもかなり作り込めるようになりました。後の細かい作業をアシスタントにお願いする場合も、Presence XTだったらファイルを投げるだけでOKですしね。Mai Taiもバージョン3になった時にシーケンスとかで何曲か使いましたよ。

Studio Oneをコアとした林ゆうき氏のプライベート・スタジオ全景
作家向けのスクラッチパッド機能はすごく便利な機能ですよね。昔からプロジェクトの後ろの方を使って別バージョンを作るとことをよくやっていたので..。作業途中で要らない部分だと勘違いして、間違えて消してしまうことがよくありまして(笑)。その点、スクラッチパットは別軸に存在するものなのでそういう心配も要らないですし、すごく作家寄りというかクリエイターの気持ちを理解した機能だと思います。あとはアレンジトラックも便利ですね。AをBの後ろに持っていくなど試行錯誤ができるので。サウンドトラックの仕事とかでは助かりますね。
後はマルチトラック・コンピング。テイクを何回か録り、良い部分を簡単に組み合わせることができる。Studio Oneのコンピング機能はシンプルで使いやすい。それとクリエイター目線で設計されているユーザー・インターフェースも気に入っています。例えばエフェクトを使いたい場合、右側のブラウザーからプラグインをトラックへドラッグ&ドロップするだけで使えるのが良いですよね。さらに、プラグインのインサーションなどの情報込みでトラックを簡単にコピーできるのも良い。他のDAWではできないですからね。
“Studio Oneは劇伴作曲ツールとしても十分な機能を備えている”
Studio Oneは劇伴作曲ツールとしても、十分な機能を備えている

音楽制作の合間に愛犬とリラックスする林ゆうき氏
劇伴では最初に、明るい曲とか悲しい曲といった抽象的なオーダーを貰い、それに合わせて何十曲も作る必要があります。その際、1曲ずつ別のプロジェクトで作るのではなく、最初は1つのプロジェクトの中で全部作った方がいいかもしれないですね。その方が全体のバランスや統一感の確認ができますし、朝の連続テレビ小説とかですと100曲以上作らなければならないので、同じような曲がないかチェックすることもできる。それである程度できた段階で、各曲を小分けにする。これは、動作が軽いStudio Oneならではのフローだと思います。
Studio Oneは劇伴作曲ツールとしても機能的には十分過ぎると思います。先ほども紹介しましたが、最初に1本のトラックの中でアレンジした後、楽器ごとに別のトラックに振り分けるという劇伴的な作業にも対応していますし、スクラッチパッドやアレンジトラックも支援してくれています。バージョン・アップでユーザーの要望をしっかり反映してくれますし、凄く満足しています。あとは動画の書き出しができるようになると嬉しいですね。現状は映像編集ソフトウェアを併用しなければならないので、簡単な映像付き書き出しがStudio Oneだけでできるとよりいいと思います。
林ゆうき
高校生の時に男子新体操に出会い、踊るための音楽を選曲しているうち に伴奏音楽の世界に傾倒していく。演技者として大学に進学…音楽経験はなかったが、独自の音楽性を求め 大学在学中に独学で作曲活動を始める。卒業後にhideo kobayashiにトラックメイキングの基礎を学び、 本格的に伴奏音楽制作者に。2008年末、ドラマ「トライアングル」の音楽制作に関わる。
[林ゆうき公式サイト]