砂原良徳

電気グルーヴでの活動を経て、サウンド・クリエイター/プロデューサー/DJとして活躍し、高橋幸宏、小山田圭吾、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井によるスーパー・グループ、METAFIVEのメンバーとしても注目を集める砂原良徳氏のトラック制作に欠かせないのがPreSonusのStudio One。優れた操作性と軽快な動作、そしてナチュラルでクセのない音質を高く評価し、0.5秒の差でも制作活動に大きく影響を与えると語る砂原良徳氏に、SWITCHした理由やシーケンサー遍歴、トラック制作/マスタリング・ツールとしての魅力を独占インタビュー。









“MIDIで音源を鳴らすのが基本






 

昔から現在に至るまでMIDIで音源を鳴らすのが基本

その当時、コンピューターの動作が不安定なところが嫌で、後はセッティングも面倒だなと思って..。当時、かなりの量のシンセを使っていましたからね。MC-50で済むのだったらその方がいいなと。機能的にもMC-50に不満はなかったですけど、唯一パーセンテージでシャッフルできるのはいいなと思っていました。MC-50で細かいシャッフルを打ち込むには、MC-4みたいに数値で入力しなければなりませんでしたからね..。それだけはいいなと思っていましたね。その後、ソロ・アルバムを作ろうと思ったのが切っ掛けですけど、そのタイミングで音源類の数を最低限にしようと思い、それだったらコンピューター・ベースのシーケンサーに移行してみようかなと思いました。

音源類の数を減らそうと思ったのは反動ですかね(笑)。最初のソロを作る前、電気グルーヴのアルバム(1994年発表の『DRAGON』)を作った時のシンセの物量がもの凄いことになっていて、あまりに数が多いものだからSequential Circuits Prophet-5をクリックだけに使ったりして(笑)。何でも行き過ぎると反動で真逆の方向に行きたくなる。正にそんな感じで、突然大量のシンセに囲まれて曲を作るのが嫌になってしまったんですよね。こんなにある意味が分からないよって。それで、ソロ・アルバムを作るタイミングで音源をAKAI S3200が2台とJUNO-106だけにしました。ちょうど古いレコードを買い漁っていた頃で、サンプラーが楽しくて質感も好きでしたし。

砂原良徳氏と愛用するStudio One

最初のシーケンス・ソフトウェアはOpcode Systems Visionです。どのソフトウェアにしようと相談したHiroshi Watanabeくんや、テイ・トウワさんもそうでしたし..。今思うとVisionって使い易かったですね。ソロを作ってまた電気グルーヴに戻った時に、石野卓球くんも同じタイミングでソフトウェアに移ったそうで、でも彼はCubaseだったので「お前もこっち覚えて!」と言われてCubaseに(笑)。それに、その当時Visionの先行きが何だか怪しくなっていて..。Cubaseを使ってみて、テクノの人に好まれる理由が分かりました。半小節ずらしたりとか、ループ・ポイントを変えたりとか、そういった操作が簡単にできましたからね。そして、2000年頃『LOVEBEAT』の制作に入るタイミングで、そろそろ新しいソフトウェアに変えたいなと思ってLogicに移りました。Logicを選んだのは、Visionのように突然無くなってしまうのは嫌だったので(笑)。だからVision、Cubase、Logicを転々としてきた感じですね。

DAWでのオーディオは、2枚目のソロ・アルバム(1998年発表の『TAKE OFF AND LANDING』)を作り始めた時が最初だと思います。あのアルバムも音源はハードウェア・サンプラーがメインでしたけど、サンプルを途中から再生させるなど、長いサンプルの操作が少々面倒でした。それで試しにオーディオ・トラックを使ってみるかと思い、コルグの1212 I/Oを入手して使い始めました。でも、特殊なことをやる時に少しオーディオ使う程度でしたね。サンプラーで鳴らした方が音質的にも好きでしたし、スタート・ポイントやリリース・ポイントを変えるなどの操作も簡単にできましたから。今でもオーディオ・トラックは最後に録る時しか使っていなくて、サンプラーをMIDIで鳴らすのが基本です。









発音タイミングはジャストだがリリースは重要






 

発音タイミングはジャストだが、リリースの調整はとても重要

トラックメイクする砂原良徳氏

ちょっと前に若い子に自分のデータを見せたら、「うわ、全部MIDIだ。すげぇ!」と驚かれましたから(笑)。僕からすると、オーディオだけで曲を作る方が意味分からないですけどね(笑)。

最近はパーセンテージでシャッフルさせることってほとんどなくて、タイミングはほぼジャストです。『LOVEBEAT』の時は人真似のような感じで、ああいうグルーヴを作り始めたのですが、ずっと借り物のような感じがしていました。打ち込みながらも、こういうグルーヴって自分の体の中には無いものだなって(笑)。だから最近はずっとジャストですね。でもジャストでもいい感じのグルーヴが作れると思います。例えばドンというキックの前に64分音符で小さく「チッ」という音を入れることで、単なるドンがドワッになったりする。ギターの空ピックと同じイメージですね。

METAFIVEも、僕が手掛けた曲は全部ジャストですよ。テイさんとの共作で『Albore』という曲がありますが、あれも最初はシャッフルでしたけど、僕がジャストに直してしまいました(笑)。発音はジャストですけどリリースも重要で、かなり時間をかけて調整しますね。リリースの調整のために、ひたすらループさせているのが何日も続くことがありますよ。

Studio Oneの魅力を語る砂原良徳氏

SWITCHの切っ掛けは『ノーコン・キッド 〜ぼくらのゲーム史〜』というテレビ・ドラマの劇伴を手掛けることになって、他のソフトウェアに移ろうと思いました。Logicは、長い間使っていましたけど、実は不満だらけでした。とにかく反応が鈍くて、すぐにレインボー・カーソルがくるくる回り始める。音質的にもクセがあって、これはちょっと信用できないなと思っていたので、ずっと他のソフトウェアに移ろうとは思っていましたね。

Studio Oneは、人から「合ってるんじゃない?」と薦められて、とりあえず試してみたところ、すんなり使えたんですよ。Logicのショート・カットも用意されていて、これはいいなと。制作に入るまで、曲作りが嫌になっていたのですけど(笑)、Studio Oneのおかげでまた曲作りをやろうという気になりましたね。いや、冗談ではなく本当に(笑)。新しいソフトウェアですけど、元Steinbergのエンジニア達が開発しているということで、安心感があったのも大きかったですね。









“Studio Oneは反応が速く、音がフラット






 

Studio Oneは反応が速く、音がフラットで素直なところも気に入っている

Studio OneのChorderを使用して制作されたMETAFIVEの「Luv U Tokio」

Studio Oneは、何より反応が速いのが良いです。例えそれが0.5秒の違いでも、作業ではその積み重ねですから、制作にはかなり影響を与える。あと音質も評判どおり良かったですね。良かったというより、これが普通だよな、これが正しい音だよなっていう。音が正確になったのでLogicで作業していた時よりも姿勢が良くなりましたね(笑)。あとは操作がシンプルなところもいいなと思います。これまでマニュアルは一度も見てないですが、問題なく使えていますし。iPhoneとかと一緒ですよ。それとLogicでは使えなかったVSTプラグインが使えるようになったのも嬉しかったですね(笑)。

Studio Oneに移行する時に唯一不安だったのはMIDIリスト・ウィンドウがないことでしたけど、実際に使い始めてみるとまったく問題なかったです。逆にリスト・ウィンドウがなくても、最終的には耳で判断するわけで、その方が結果的に良かったと思います。数値で音楽を聴いているわけでもないですし。Studio Oneへ望むとすればクォンタイズの充実だけですかね。自分の作業では必要ないですけど、頼まれ仕事ではもうちょっと細かく設定できたらいいなと感じたことがあったので..。でも本当にそれくらいですよ。

機能よりも、総合的な使い易さが一番気に入っています。本当に手探りで使えてしまうソフトウェアなので、凄く使い易いですね。あとは動作が軽くて、音がフラットで素直なところも気に入っていますね。動作が軽いというのは大きいです。思い浮かんだアイディアはすぐに形にしたいですし、Studio Oneを使い始めてから曲作りがまた楽しくなってきましたよ(笑)。

純正エフェクトやインストゥルメントもかなり使っていますね。エフェクトですと、Analog DelayやBeat Delayとか。EQはPro EQをよく使いますし、X-Tremも好きですね。シンプルなオート・パンですけど、パッドを動かしたりする時に重宝しています。音源で一番使うのはサンプラーのSample Oneで、とりあえずサンプルを鳴らしたいという時は最初に必ず立ち上げます。それでSample Oneでは難しい場合には、ドラムだったらNative Instruments Battery、それ以外はKontaktを立ち上げると。 一番気に入っているのは、Note FXプラグインのArpeggiatorとChorderですね。Chorderは、入力した単音から和音を生成してくれる純正プラグインですけど、METAFIVEの『Luv U Tokio』のコードはこれで作りました。良い響きをメモっておくのにも便利な機能だと思います。

Studio Oneのマスタリング機能もクセがなくて使い易いですね。DDPの書き出しもできて、当たり前のことが当たり前にできるソフトウェアだなと。マスタリング用途でも信用できるソフトウェアだと思います。


砂原良徳

1969年9月13日生まれ。北海道出身。電気グルーヴに91年に加入し、99年に脱退。電気グルーヴの活動と平行して行っていたソロ活動では、95年にアルバム『Crossover』、98年にはアルバム『TAKE OFF AND LANDING』、『THE SOUND OF‘70s』を2作連続リリース。01年に電気グルーヴ脱退後初となるアルバム『LOVEBEAT』をリリース。02年には幕張メッセで行われたフェスティバル“ELECTRAGRIDE”でキャリア初となるソロライブを披露。その他にもACOのシングル「悦びに咲く花」、映画「ピンポン」の主題歌となったスーパーカーのシングル「YUMEGIWA LAST BOY」などのプロデュースや数多くのCM音楽などを手掛ける。09年には映画「ノーボーイズ、ノークライ」(主演:妻夫木聡/ハ・ジョンウ)のサウンドトラック『No Boys, No Cry Original Sound Track』をリリース。2010年には元スーパーカーのいしわたり淳治とのユニット<いしわたり淳治&砂原良徳>を結成し、相対性理論のやくしまるえつこをボーカリストに迎えてシングル「神様のいうとおり」をリリース。2011年には10年振りのオリジナルアルバム『liminal』をリリース。2015年には高橋幸宏、TOWA TEI、小山田圭吾、ゴンドウトモヒコ、LEO今井とともにMETAFIVEを結成し、2016年1月にアルバム『META』をリリース。11月にはミニアルバム『METAHALF』をリリースする。
[砂原良徳公式サイト]
[METAFIVE公式サイト]